いちごのアイス

2005年1月31日 戯言
 
 
「空を飛びたい」
そう思った。
 
 
 

自由自在に機体を操り、風を読み、
壮大な蒼の中を抜けてゆく…。
オレンジのパラグライダーに乗る貴方が、大好きだった。

彼は私の叔父にあたる人。
少し大きなお兄ちゃんといった感じの人だった。
優しくて、格好良くて、運動神経が良くて。
何より私を可愛がってくれた。

少し離れた所に住んでいた彼は、帰って来る時必ず電話をくれる。
「美晴ー!お土産何がいい?」と。
「いちごのアイス!」
彼はいつも、ハーゲンダッツのいちご味を2つ、
コンビニの袋に入れて買ってきてくれた。

二人で笑って、じゃれながら、アイスを食べる。
彼が持って帰ってきた洗濯物を投げあい、母に怒られる。
彼が今週、パラで何処まで飛んだかの話を聞く。
そんな穏やかな時間を、何時も楽しみにしていた。

10年前の秋。彼は私の前から姿を消した。
溺れている女の人を助けて、還らぬ人となった。
その知らせを聞いても私は、全てが信じられなかった。
家の冷蔵庫には、何日か前に2人で食べたいちごのアイスが、
半分ずつ、残ったままになっていた。

今でも、思い出す。
あの時の彼の表情や、笑い声。
眼鏡の奥の優しい瞳。
恋とは違ったけれど、私は彼が大好きだった。

会いたいよ。
また「ガキ!」って悪戯な顔で笑って、髪の毛をくしゃくしゃにして欲しい。
二人並んでアイスを食べたい。
色んな話を聞かせて欲しい。

もし貴方が今此処に居たなら、
どんな話をしていたでしょうね。
きっと、貴方にしか話せない事も、あったでしょう。

今夜食べるハーゲンダッツのストロベリー味は、
少し切ない思い出の味。

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