「空を飛びたい」
そう思った。
自由自在に機体を操り、風を読み、
壮大な蒼の中を抜けてゆく…。
オレンジのパラグライダーに乗る貴方が、大好きだった。
彼は私の叔父にあたる人。
少し大きなお兄ちゃんといった感じの人だった。
優しくて、格好良くて、運動神経が良くて。
何より私を可愛がってくれた。
少し離れた所に住んでいた彼は、帰って来る時必ず電話をくれる。
「美晴ー!お土産何がいい?」と。
「いちごのアイス!」
彼はいつも、ハーゲンダッツのいちご味を2つ、
コンビニの袋に入れて買ってきてくれた。
二人で笑って、じゃれながら、アイスを食べる。
彼が持って帰ってきた洗濯物を投げあい、母に怒られる。
彼が今週、パラで何処まで飛んだかの話を聞く。
そんな穏やかな時間を、何時も楽しみにしていた。
10年前の秋。彼は私の前から姿を消した。
溺れている女の人を助けて、還らぬ人となった。
その知らせを聞いても私は、全てが信じられなかった。
家の冷蔵庫には、何日か前に2人で食べたいちごのアイスが、
半分ずつ、残ったままになっていた。
今でも、思い出す。
あの時の彼の表情や、笑い声。
眼鏡の奥の優しい瞳。
恋とは違ったけれど、私は彼が大好きだった。
会いたいよ。
また「ガキ!」って悪戯な顔で笑って、髪の毛をくしゃくしゃにして欲しい。
二人並んでアイスを食べたい。
色んな話を聞かせて欲しい。
もし貴方が今此処に居たなら、
どんな話をしていたでしょうね。
きっと、貴方にしか話せない事も、あったでしょう。
今夜食べるハーゲンダッツのストロベリー味は、
少し切ない思い出の味。
コメント